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193 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:43:02 ID:nwNOzgTI
私は、とあるギルドに所属して、世界樹の踏破を目指している。
リーダーは無口な剣士。
ブシドーという必殺の剣技を操り、いつも最前線で戦う。
そして、戦いが終わったら傷だらけの彼を治すのはメディックである私の仕事。
…でも、無口な彼は治療を受けても何も言わない。

「…まったく、ありがとうの一つも言えないかな。」

そうぼやきながらも、実の所は、そんなに嫌じゃない。
彼の役に立てるのはこれくらいだから。
エトリアの世界樹を制覇した歴戦の勇士である彼に比べて、新米メディックの私には余りにも経験が足りないから。
 
194 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:44:04 ID:nwNOzgTI
「…いくぜ」

彼は愛用の刀、八葉七福を担ぎ上げると仲間に号令をかけた。
私以外はみな、彼と共にエトリアを制覇した歴戦の勇士。
素早く準備を整えると彼の後に続く。

「あ、まってくださいっ」

急いでちらばっている薬品をかき集める。

「…はやくしな。」

彼の背中はどんどん遠ざかる。
まったく、誰の傷を治してたから遅れたと思ってるんだ。
口から飛び出しそうになる言葉を飲み込んで私は立ち上がる。
どうしてこんな人を好きになっちゃったんだろう。


195 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:45:21 ID:nwNOzgTI
時々そう思ったりもする。
だけど、すぐに思い直す。
そう、彼は

「おい、ぼさっとするな!」
私の思考を遮る、怒号が響く。

「きゃっ!?」

突然、巨大な蟷螂が飛び出して来たのだ。
私以外はみな、咄嗟に戦闘体制に入る。大したものだ。
だけど私は突然の事に足がすくんでしまった。
蟷螂の大鎌が私に向かって降り下ろされる。
蟷螂もさすが、一番よわっちいのが誰だかよく分かっているようだ。
死を覚悟し、目を閉じる。
どぱっ、と顔に水滴がかかる。
だが、予想していた痛みはやってこない。


196 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:46:44 ID:nwNOzgTI
そのはず。鎌は私を貫けないでいた。
私の替わりに貫かれていたのはリーダーなのだから。
「いやぁぁぁ!!」

思わず私は叫んでいた。
彼の腹部を貫く真紅にまみれた大鎌。
そんな事は大したことでないように振る舞い、彼は八葉七福を抜き放った。
蟷螂は彼に止めを刺すためにもうひとつの鎌をふりかぶる。
絶体絶命のピンチ。
だが彼は動じない。
シニカルに笑い睨み付ける。
目の前の死にかけの人間の行為に蟷螂は一瞬躊躇するが、すぐに思い直し、鎌をふりおろす。
だが、その鎌は彼を貫けなかった。
強烈な盾の一撃で弾かれたのだ。


198 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:47:49 ID:nwNOzgTI
シールドスマイト。
仲間のパラディンの稲妻のような一撃で蟷螂の鎌は大きく弾かれた。
その隙を、彼が見逃すはずがない。

「てめえの!敗因はッ!」

彼は叫びながら腹部に刺さった鎌を腕ごと叩き斬る。

「俺を殺すのをっ!一瞬でも躊躇ったからだっ!」

八葉七福を上段に構える。
彼の必殺の構えだ。

「必殺ッ!ツバメェ…返しっっ!!」

彼の剣が閃く。
崩れ落ちる蟷螂。

「…俺を誰だと思っている。」

数瞬後、蟷螂は肉片となり樹海の土に帰っていった。


199 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:48:59 ID:nwNOzgTI
「ぐすっ、ご、ごめんなさい、私のせいでっ」

いくら拭っても涙が止まらない。
お陰で前が見えないから薬品が見えない。
けどそんなこと言ってられない。早く手当てしなければ。
…戦いが終わると、彼はその場に崩れ落ちた。
おびただしい出血。すぐに手当てしないと間違いなく命にかかわる、そんな傷。
なのに私は止まらない涙のせいでご覧の有り様だ。自分の不甲斐なさが心底情けない。

すると彼は私の頭に手を置き、

「…怪我はないか?」

と、普段は見せない優しい顔で私に話しかけた。
だが私はただ、頷く。それしかできない。


200 :名無しさん@お腹いっぱい。:2008/05/05(月) 21:49:47 ID:nwNOzgTI
「…そうか、よかった。」

彼は呟く。
そう。彼は。
誰よりも仲間の事を思っているのだ。そして。

「リーダー、平気なのか?」
先程彼を救ったパラディンの彼女も心配して駆け寄る。
「…ああ。心配はいらない。」

彼は私を見つめて、にやりと笑う。

「この程度の傷なら、お前の腕ならすぐに治せるな。」

そう、誰よりも仲間を信じているのだ。

もう一度涙を拭う。口元が少し緩む。
もう涙はこぼれない。

「…私を。誰だと思ってますか?!」
 

コメント

感動するねぇ・・・
2010/09/18(土) 14:55:48 | URL | #- [ 編集 ]
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